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[BO補助金]

2023年03月27日

補助金は悪いものじゃない〜補助金をめぐる物語B

(前回までのあらすじ)
40代のHさんは、地元で有名なハウスメーカーの2代目社長です。社員は10名と少ないものの、外注は30名で、丁寧な仕事ぶりにより経営は順調でした。

しかし、コロナ禍により経営がピンチに! そんなときに見つけた「事業再構築補助金」の申請に向け、会社の強み、弱みを分析したHさんに、私は自分の思いを社員の前で話すことを勧めます。

▶前回までの記事はコチラから
補助金は悪いものじゃない〜補助金をめぐる物語A
補助金は悪いものじゃない〜補助金をめぐる物語@

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「西端さん。明日うちの会社に来ていただく日ですので、そのときに全員の前で話します」
返信をもらった私は、次の日Hさんの会社に向かいました。

「改まって、皆の前で話すことなんてこれまでなかった」
社員全員を前に、Hさんは話しはじめました。

「それは皆との距離が近くて、ざっくばらんに何でも話せてたっていうのもあるけど、会社の経営が順調で取り立てて心配することがなかったから。でも今は皆もわかっているように、会社始まって以来の危機的状況。何もしなければ、仕事はこない。地元で知られていること、長年働いてくれる職人の人たちがいることは、うちの会社の強み。これは先代が敷いてくれたレールみたいなものだから、これまで同様、大事にはしていきたい。だけど、この業界でうちのような小さな企業が生き残っていくには、この強みを生かしながら、うちの会社にしかできないことをやっていかなければならない。そのために、若いみんなが存分に力を発揮できるような、地元密着型の事業を打ち出していこうと思うんだ

このあと、新しい事業のために事業再構築補助金を申請する旨を説明し、集会は終わりました。
Hさんの言葉は皆に伝わったのだろうか。そう思いながら帰った数日後、会社は新たな方向に向かい始めます。

「あれから私、いろいろ考えてみたんです」
こう言ったのは、20代の女性社員Tさんです。

この日から、事業再構築補助金の申請に向け、月に2回、話し合いが行われることになりました。
参加者は先日強みと弱みを共に分析した設計のWさん(20代男性)、営業のTさん、そしてHさんです。

「この街って、昔からお年寄りが多く住んでいたけど、若い人や学生も少なくなかった。大学も沿線に点在していて、都内に出るにも便利なはずなんです。でも、最近は競うようにマンションが建てられ、もちろん悪いことではないけど、分譲にしても賃貸にしても、販売価格あるいは家賃が高くて、ある程度の収入がなければ手が届きません」

するとWさんが、
「たしかに。あと駅から少し離れると、一戸建てもたくさんある。どんどん建築されていくし、ファミリーには需要があるけれど、それを若者や単身者が買うかって言ったらどうかな」

「昔は終電近くまで会社で働いて、家=寝に帰るだけの場所みたいな人がたくさんいました。でも働き方改革やコロナがあって、おうち時間が増え、家は単に寝るだけの場所でなくなった。それに今の時代は『安くておしゃれ』、でも『質のいい』ことが当たり前。家だって同じでしょ。質の良いものに囲まれて、ほっとできて、気持ちよく仕事もできる場所じゃなきゃ」

「そうすると、一戸建てを専門にしてきたうちの会社が、若い人たちに向けて地元でできる新しい事業ってなんだろう」

「それに、他の会社ではやってないことってなるとなかなか難しい…」
急に黙ってしまった2人に、Hさんが言いました。

「今日は最初の話し合い、だからすぐに結論にはたどりつかないよね。でも、2人の話を聞いていて、若い人たちがもっと気軽に質のよい住居を手に入れられるようにすることがうちの会社の役目なんじゃないかっていうことはわかった。あと、こないだも言ったけど、うちには長年働いてくれている職人さんたちがいるよね。その人たちの知恵や力を借りながら、簡単に言うと『若手とコラボ』みたいな何かができないだろうか

次回までにおのおの考えてみよう––ここでこの日の会議は終わりました。

私と2人になると、
「こないだ話したことが皆の心に響いたのかどうか、正直気になっていました。でも今日の話し合いでわかったんです。WもTも、私の考えに全面的に賛同しているかはわからないけれど、若いながらに会社の未来を考えてくれているんだと

こう言ったHさんに私は、
私も今日の話を聞いていて、2人とも話に粗削りなところはあるけれど、周りをよく見ていると思ったし、会社のために何かしなければという気持ちが伝わってきました。Hさんが皆の前で話したことに十分意味はありましたね。経営者が采配を振るい、社員も会社も動かしていた、そんな時代は終わりました。これからは社員一人ひとりが自分で考え、行動を起こしていく企業、つまり自立(自律)型企業が生き残っていくのです。この話し合いは、ただ補助金申請のためだけではない。会社のために自分には何ができるのかを社員が考え、どの場面で一人ひとりが力を発揮できるのかをHさんが見極める、いわば人材育成の機会でもありますよね

このあと、WさんとTさんは若い感性を働かせながら、それぞれの得意な分野で力を発揮し、新事業に向け邁進していきます。続きはまた次回に!

▶続く(補助金をめぐる物語Cは、4月中〜下旬頃に更新予定です。お楽しみに!)

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